5P。(仮題)←…。2





ヒイロはデュオの身体を隅から隅まで嘗めるように検分する。
顔や身体付きは脱がせる前から気に入ってはいたが、全裸にしてデュオの一つ一つのパーツを眺めてみて己の目が確かであったことを再確認する。
いや、正確には息子の目の確かさであったか。
眠っていて大人しくしている間にデュオの三つ編みを解いてしまう。
編まれていた髪はゴムを外してバラしてやると緩やかなウェーブのまま広がった。
こうして見るとまるで眠り姫のように愛らしくみえる。
「……トランクスを履いた姫君では笑い話にもならないな」
そう言ってヒイロは手を伸ばしデュオの頬をさわさわと撫でた。
デュオは未だ目覚めない。
その寝顔はヒイロの悪戯心を擽る。
「…デュオ、」
名を呼びながら耳元に寄せた口でデュオの耳朶をきり、と噛んでやる。
「……っん……」
痛みにデュオの瞼が揺れ、漸くゆっくりとではあるがデュオが目を開けた。
ぼんやりとした表情のまま緩慢な動きで頭を巡らす。
「漸くお目覚めか?」
声のした方を見て、ヒイロの姿に驚く。
自分の今ある立場がわからなくて、失態を犯したのかと思ったのだろう、飛び起きようとして身体が動かないことに愕然とするのが顔を見てわかる。
「…ああ、起きなくていい。起きられないようにしてある」
「……は? 何だって?」
少し掠れた声は喋り出すことですぐに通常の状態に戻った。
声は普通に出せるらしい。
身体も機敏に動かそうとしなければゆるゆると動かすことが出来そうだった。
しかし何も、下着すら身に付けていないのはどういうことなのだろう。
嫌な予感の答えを求めるようにデュオはヒイロの顔を見つめた。
「…おまえの予想通りということだ、デュオ」
普通なら見惚れるようなヒイロの笑みが、今は何故か恐ろしかった。






「…何て、言った? …ヒイロ」
デュオはまるで否定して欲しいかのようにゆっくりと返答を求めた。
「ああ、聞きたいのなら何度でも教えてやろう。
 デュオ、おまえはこの家の所有物、玩具になるために雇われたんだ」
こんな格好にされて、こんな場所で、普通の玩具だとは思わないが確かに。
「……………慰み者、ってこと?」
「意外と落ち着いてるな、…そう、そのとおりだ」
ヒイロがにこりと笑った。
先程よりは幾分柔らかな笑みでデュオはホッとする。が。
「………ふうん、…とかっておとなしく納得するとでも思ってんのかよっ!」
デュオが動かない身体を無理に動かしてヒイロを蹴ろうとする。
「いや、思わないからこそこうして身体から説得しようとしているんだが?」
緩い調子でしか上がらなかったデュオの脚を手に取って、ヒイロはその爪先に恭しくキスを捧げた。
…ぞわわわわわ。
「…離せよこのっ、変態ッ!!」
「変態とは心外だな、これから夜の生活マナーを教えてやろうというのに」
(……夜の、性活マナーだあぁ?)
微妙に変換が変わっているが、あながち間違いではない。
「謹んでっ! お断り申し上げますっっ!!!」
「夜だけでは不満なら一日中ベッドの中で泳がせてやっても良いが?」
「……泳ぎたくねぇっ!!」
「場所を限定するのも嫌か? …しょうがないな。
 俺は育ちが良いからあまり他の場所でヤるのは好まないんだが」
「……なぁ、オレの言葉通じてないような気がすんだけど」
デュオは精神的な疲れからぐったりしてしまう。
例え全て冗談だとしてもここまで[おかしい]相手だとは思わなかった。
「そうか? …さほどの支障はないが」
「こっちには大いにあんだよっ!」
………ああもう嫌かも。
「まあ、元気な返事を返せるのもあと暫くだ、存分に吠えていいぞ」
「………え、」
嫌な予感が。…そしてそれはすぐに身を以て知らされる。
「……………う…ぅ、なに、これっ…」
ぞわりと背を、身体中を這い回り熱を上げる見えない手のような奇妙な感覚。



「……………ぅあ、何だよこれ…っ」
「…暴れたりするから早く薬が回るんだ、まあその方が好都合だがな」
「………なに、って…聞いてんだ、よっ!」
がるる、と食い付きかねない様子でデュオがもう一度言った。
ヒイロはどこか感心した風な目でデュオを見やる。
「この家に代々伝わる秘薬をな、さっき寝ている間に注射させてもらった。
 おまえのような相手の調教に使うんだ」
「………ぅわ、…嘘、だろぉ……」
否定したい、けれどこの身体の疼きは本物で。
ヒイロがデュオの喉元にそっと手を伸ばし、すいと撫で上げてやるだけでその身体が震えた。
「思った通り、いい感度だ」
「…っ、触んなっ…!」
「諦めて素直になった方がいいぞ、どうしたって2時間は薬効が抜けん」
「……に…2時間っっ!?
 ふ、ふざけんな2時間もヤられっぱなしなんて…耐えられっかよっ!」
「耐える必要はない。俺が今から教えるのは『楽しみ方』だからな」
「…………はぁ?」
「奉仕のテクニックは後から四人掛かりで磨いてやる。
 俺がおまえにセックスの『楽しみ方』を教えてやろうと言っているんだ」
(………教える、だと? どう考えてもコレは【強姦】だろ?)
デュオはヒイロのあまりの言い草に口がきけなくなった。
呆れてものも言えない、というやつだ。
(………ああ、そう言えば【調教】ってさっき言ってたっけ…)
納得したくはないが、身体に力が入らないのは如何ともしがたい。
(それより何か、今とても嫌な単語を聞いたよーな…何人掛かりだって??)
…駄目だ、思考がもう考えることを拒否し始めている。
抗うだけの意志力はどうにも残っていないようだ。
ヒイロは大人しくなったデュオに気を良くしたのか、そっと口付けた。
今日何度目だろう、この家の人間にキスをされるのは。
ヒイロのキスはまず最初子ヒイロにされたような触れるだけのキス、それから少しずつ深く甘いものになっていった。
「…………ぅっ……ん……、」
デュオの思考は次第にとろんとしてくる。
流石に一番年長者のこのヒイロのキスはものすごく上手かった。
デュオは知らぬまま自分からもヒイロの舌に己の舌を絡めていく。
疼きはじわじわとデュオの身体を浸食し、身体の熱が上がっていくのが解る。







デュオは僅かに残った理性の片鱗を捕まえようとするかのように、もう満足に動かない右手で自分の腿を引っ掻いた。
がりり、と思ったよりは力が入り、ついた三本の線からじわりと血が滲む。
それで一瞬何とか我に返ったデュオは口内にあるヒイロの舌を噛もうとした。
…しかしそれには相手が悪かった。
数秒前のデュオと違い、周りを見やるだけの余裕のあるヒイロがデュオの手の動きを目に止めていない筈がなかった。
唇を合わせたままデュオの喉を上から押さえつけた。
ぐ、と喉が鳴る。
気管に唾液が入った。
途端デュオはごほごほと咳き込みだした。
「………参ったな、大した精神力だ」
ヒイロのその口調はどこか楽しんでいるように聞こえる。
…当然、デュオがそれに気付いたわけではない。
咳き込み疲れ、肩で息をしているデュオの目には苦しさで涙が滲んでいる。
ヒイロはデュオが落ち着いたのを見て取ると、顔をゆっくりと近付けてその涙を舌で嘗めてやった。
「……んぅ…っ…、」
ぴくん、とデュオの身体は反応し小さく吐息が漏れた。
もう完全に力が入らない。
今まで知らなかった劣情がデュオの身体を支配し始めた。
そしてヒイロ・ユイに降伏をしたも同然だった。
怖い、という感情はもう浮かんでこない。
デュオにはもはや従順に愛撫を受け、悦がるだけの選択しか残されていない。
「…………デュオ…」
ヒイロの声を耳にして、それだけで感じてしまう己の身体を。
もう、情けないとすら思えなくなってしまった。
「………………ヒイ、ロ………」
応えるように名を呼ぶ声は、ひどく甘く響いた。





ヒイロの唇はデュオの耳を掠めるように触れ、首筋にもゆるりと舌を這わせると、ちっと小さく吸い跡を残した。
「…………っ……」
綺麗に跡が付く。ヒイロが付けた最初の所有の証だった。
「…デュオ、」
名を呼びながらヒイロの手はデュオの身体をまさぐる。
ただ触れているだけのようでいて、その指先はデュオの感じるところを的確に攻めている。
「……ぁ…あ……、や、…ヒイロ……ッ」
そのままいくつも紅い印を付けながらヒイロの唇はデュオの胸に辿り着いた。
触れるまでもなくぷくりと紅く色付いた胸の果実がヒイロを誘う。
焦らすように周りを嘗めてから口に含んでやると、デュオは背を反らせてびくびくと身体を震わせた。
舌先で挟み、そして軽く歯を立ててやったりして苛めてみる。
デュオの身体は面白いほど跳ねた。
ヒイロはデュオがこの行為を初めて受け入れているのが解った。
しかし初めてにしては驚くほどにデュオの感度が良い。
(……本当に、思わぬ良い拾いものだったな…)
切れ切れに聞こえていた喘ぎが聞こえなくなって、ヒイロは顔を上げてデュオの顔を見やる。…思った通り、唇を噛んでいる。
けれど噛み締める、までの力は残っていないので下唇に上の歯が当たっている程度でしかない。
まだどこか無意識にでも抗おうとしているデュオにヒイロの顔が笑んだ。
「…………面白いな、おまえは」
そう言いながらデュオの唇を己のそれと合わせる。
デュオの唇はあっさりと解かれ、ヒイロの舌を自分から求めるように嘗めた。
「んっ……、ん…」
ほんの先ほどしてやったキスをデュオはもう覚えていて、ヒイロは驚く。
キスの最後にデュオの下唇を嘗めてやって、それからまた愛撫を再開する。
既に半勃ち状態のデュオのものをそっと撫でるように手でくるんだ。
デュオは身体を跳ねさせはしたが、その吐息にはどこか安堵が含まれていた。





「…他人の手で触られるのは初めてか?」
視点が一定しないデュオの目を見つめてヒイロは問う。
デュオはふる、と首を振るがそれは否定の動きではなくてどうやら『何を聞かれているのかわからない』という意志表示のようだった。
「あぁ、悪かった…意地悪をするつもりではなかったんだが、」
デュオのものの口からとろりと零れた液がヒイロの手を濡らした。
ヒイロの掌に包まれてそれはとくりと脈打つ。
「……ゃ…だ……、や…もぅ、」
デュオは切なげに首を振る。
ヒイロは流石にこれ以上は保たないと思い、デュオのそれを扱いて射精を促してやった。
「…、んんっっ!」
達する瞬間、デュオはきつく目を閉じて顔を横に背け唇をきゅ、と噛んだ。
背を撓らせデュオはとくとくとヒイロの手の中に白濁を吐き出した。
ヒイロの手の中で己を解放したデュオはそっと息を吐いた。
「………ん…、あ…」
克すぎる快楽にデュオの瞳がまた潤んでいた。
「…気持ち、克かっただろう? デュオ」
今度はデュオはヒイロの台詞にこくりと頷いた。
「…………デュオ、」
またも耳元でヒイロがデュオの名を囁くように呼ぶ。
それすらに感じるのかデュオは首を竦め、目を瞑った。
「もっと、気持ち克く…なりたいだろう?」
デュオが目をゆっくり開いて不安そうにヒイロの方を向いた。
「……ヒイロ?」
問い返す声には戸惑いが混じっている。
「大人しくしていたらもっと克くしてやる…どうしたい?」
デュオは視線を彷徨わせ、先程と同じように何を言われているのかわからないまま瞼を伏せた。
「………ん、」
ただ従順に頷くだけのデュオにはヒイロに逆らう気が全くなくなっていた。
デュオはゆっくりと両腕を持ち上げ、ヒイロの背に回した。





「………なに…すんの……?」
消え入りそうな声でデュオがそう問いかけた。
身体の奥からまた熱が上がって来て、デュオは僅かに震えだした。
「…そうだな、おまえと一つになる為の準備をしなくてはな、」
「……準備…?」
デュオはヒイロの背に手を回したまま、不思議そうに首を傾げた。
ヒイロがデュオの液で濡れた方の手をそ、と後口に触れさせた。
「ここで、おまえは俺を受け入れるんだ」
そして指をつぷ、と飲み込ませた。
「っ! ……ひっ…あ…」
力の入っていなかったデュオの身体はヒイロの指を最初すんなり食み、けれどすぐに異物を追い出そうとするかのようにきつく窄まった。
ヒイロはその反応を楽しむかのようにぐい、と更に指を押し進めた。
「……ん、っ、や、嫌だ……ゃ…」
気持ちが悪い。
「…デュオ、……デュオ…」
耳元で名を呼ばれ、その響きが優しくてデュオは少しだけ力を抜いた。
「………ヒイロ…ッ…」
ヒイロは指を埋めたまま、もう片方の手でサイドテーブルから白い薬瓶を取り出した。
片手で器用に瓶の蓋を回し開け、中身のクリーム状のものを指先に取る。
「…すぐ楽になる、力を抜いていろ…」
埋めていた指と入れ違いに逆の手の指をゆっくり差し入れる。
クリームを乗せた指は冷たくて、一瞬デュオは身体を竦ませるが量の手助けもあってするりと最後まで飲み込み終えた。
ヒイロは内部の指をぐるりとかき回すように刺激した。
「………っあぁっっ!!」
一際高い声がデュオの口を突いて出た。
それを聞いてヒイロは満足そうに微笑んだ。





冷たかったクリームはデュオのなかで温められとろりと零れた。
つ、と雫が伝うその感触にすらデュオは感じて身体を揺らす。
「……や…何、…何したんだよ…っ」
息が上がる。
先程までよりもっと身体が熱い。誇張ではなく燃えるように熱い。
「…あつっ…い、ゃ………やだヒイロ…ッ」
「デュオ、目を瞑れ」
そんなことを言われ、何故だか解らなくて、けれどデュオは瞳を閉じる。
デュオの中をぐちゃぐちゃかき回していた指がするりと抜かれたかと思うと、代わりに何か熱いものが押し充てられデュオの中に埋められていく。
「っあ、あ、や、や…あっ!!」
薬の効果か、下肢に力が全く入らない。
デュオはただその熱さを素直に受け入れていた。
身体の中を灼熱かとも思われるヒイロのものに灼かれる。
ゆっくりと飲み込んで、擦られる感触がひどく気持ちが克くて、克すぎて。
知らない。
知らない。
…こんな感覚は、知らない。
知らず意識を彷徨わせていたらしい。
頬を撫でられてデュオはゆっくりと目を開けた。
ヒイロはそのデュオの眦に唇で触れる。
そして、口付けをされる。
「…………、ヒィ、ロ…」
合間に名が零れた。
それはひどく甘い声音で響いたような気がした。
「どうだ、デュオ…痛いか?」
「ん、…ぁ、痛く、ない……でも…何か、ヘン……」
「どう変だ? 言えるか?」
「……熱くて、…気持ち克い……、何で……?」
「…良い子だ、おまえの中もとても熱くて気持ちが克い…」
ヒイロはそう言いながらぐり、とデュオの中を擦るように自身を動かした。





ぞくぞくっとデュオの背筋に知らない感覚が走る。
「!、っあああああっ、…あっっ!!」
その動きと連動するようにデュオの内部が細かく蠕動し、己の中を灼くヒイロを絶妙な感覚で締め上げる。
あまりの反応の良さにヒイロは唇を舌先で潤し、口端だけで楽しそうに笑む。
「……良い、拾いものだった、…本当に、な…」
その台詞はもうデュオの耳に届かない。
デュオは途切れることなく喘ぎを漏らし続け、自分がどんな痴態でヒイロを誘い、またどれだけ喜ばせているかをわかってはいない。
初めて、抱かれて。
己の意志とは関係なく蹂躙されているだけの行為でも。
デュオは溺れる。
薬だけではない、この行為と、相手に。
ヒイロ・ユイという、この男に。

デュオは何度達しただろう。
ヒイロに貫かれ、悦がらせられ、喘ぎは次第に啜り泣きに変わり。
最終的に行為の継続を懇願するほどになって。
意識を飛ばしたのはいつだったのか。

ヒイロは存分に味わったデュオの身体をようやく解放した。



デュオの中から自身をずるりと引き抜く。
それと同時に中からは陵辱の証がごぽり、と溢れ出した。
果てがない。
デュオが意識を飛ばすまでずっと中から抜けたくなどは無かった。
否。
抜いた瞬間にまた突き挿れたい衝動に駆られてしまう。

ヒイロはベッドサイドに置いていたシガレットケースを開け煙草を取りだし、火を付けると一口吸い紫煙を燻らせた。





煙草を銜えたままヒイロは名残惜しそうにデュオの身体にそっと触れた。
冷たい指先が触れた所為か、デュオの肌はぴくんと微かに揺れた。
けれどまだ目を醒ます様子はない。
ヒイロはゆっくりと時間をかけて煙草を吸い終わると、くしゃりと灰皿に押し潰し立ち上がった。
そのまま風呂場に向かい、ざっとシャワーを浴びた。

風呂場から出て、ヒイロはふと無意識に頭を巡らせた。
視界の端にランプの点滅が目に入り、ヒイロは小さく舌打ちをした。
(…音を消すだけでなく線を引っこ抜くべきだったか)
しかし目に入ってしまったものは仕方がない。
ヒイロは新しい煙草に火を点け、受話器を取った。
「…………何だ、」
わざわざ聞かずとも相手は解っている。下の弟だ。
『どうだった?』
「…見ていたんだろう?」
険を含んだ声で返された相手は逆に楽しそうに返事を返した。
『……確かに面白い見物だったが、触感まではわからないからな』
悪趣味なヤツだ、と思いつつも今更なので特にそれについては言及しない。
「…急かずとも直に解るだろうが」
つい苛ついた調子で言を返してしまうが、けれどこれでは逆効果だ。
『よっぽど克かったみたいだな』
「……黙れ」
意識して低い声で言うと、相手は暫し沈黙した。
「………要するに用はないんだな、…切るぞ」
『…ああ、そうだ、そろそろ王子様のご帰還だと知らせようと思ったんだが』
「……そんな時間か、……早いな、」
『もうじきに着く、あいつのデュオに対する執着は結構なものがあるな』
「…………。気持ちはわからんでもないがな」
『おまえがそこまで言うのなら本当に楽しみだ、』
相手はそこまで言うと電話を切った。
ツー、と聞こえ、ヒイロはゆっくりと息を吐くと受話器を置いた。





「…………、ん……っ」
会話するヒイロの声には目を醒まさなかったくせに、受話器を置く微かな音に反応したのかデュオが身体を身じろがせた。
ヒイロはそれを見て少々残念に思う。
そしてその残念に思ったという事実がヒイロを微かに困惑させた。
「……目が、覚めたか」
けれどヒイロは静かな声で語りかける。
デュオはうーんと伸びをして、それからはっと気付いたように起き上がった。
「………!!!!!!」
上半身を起こしたまでは良かったが、下半身に鈍い痛みと違和感を感じて動きが止まる。
腹に力を入れてしまったために中を満たしていた液がどろりと零れた。
「…うー…っ、」
もの凄く嫌な感覚に眉を顰める。
「お目覚めの気分はどうだ? …姫」
その揶揄するような台詞にデュオはヒイロを見た。
「……最悪、滅茶苦茶、サイッテー」
「…の割には随分と悦んでいたように感じたが?」
「あれは…っ、クスリの、…所為なんだろっ!?」
「どうかな、結構な好き者はおまえの方かもしれないぞ」
「…んだってぇ?」
キッ、とデュオがヒイロを睨み付ける。
ヒイロはその視線を甘んじて受けながら言った。
「うちの可愛い王子様がそろそろ御帰還のようだ。
 その姿のまま会いたいのなら止めないが、そうでないならシャワーを使ってきた方がいいんじゃないのか?」
「………うーっっ」
まるで威嚇するようにデュオはもう一度ヒイロを睨み付けた。
「一人で入れないのなら喜んで手を貸すが?」
「結構です」
口元を引きつらせながらデュオは微笑んだ。
そしてそーっとベッドを降り、よろよろとシャワールームに向かう。
この格好のまま廊下に出たくはなかったし、自室に帰る気力もなかった。

シャワールームの戸が閉まったのと入れ替わりのように部屋の扉をノックする音が聞こえた。





扉を開けると予想通り可愛い王子様が立っていた。
険悪なのと心配そうなオーラとを一緒に纏っているのがいじらしい。
「…おかえり。学校は楽しかったか?」
どこか皮肉な響きを持った台詞が父の口から発せられるのを悔しそうに子供が睨み付ける。
その向かい合った身体からは間違うことなく風呂上がりの香りがし、子ヒイロはきり、と唇を噛んだ。
聞くまでもなく[コト]の後なのだということがわかる。
「………デュオは?」
やっとの事でそう言うと、父の横を擦り抜けて室内に入る。
「思ったより長引いてな、今やっと解放してやったところだ。
 ちょうどシャワールームに入ったばかりだが、一緒に入ってきていいぞ」
父の了承はある意味[絶対]で、[赦し]というよりは[命令]だった。
これを嬉しく思えるほどには王子様は大人ではなかった。
「…アレを、使ったのか?」
アレ、とは言うまでもなく【催淫剤】のことである。
「自分の目で確かめてみればいいだろう? 具合は良かったがな」
(………聞かなければ良かった)
などとそう思ってみても後の祭りだ。
「…………、」
何か言いかけた唇はそのまま閉じられてしまい、子ヒイロはつかつかと部屋の奥にあるシャワールームへと向かう。
所々、僅かではあるが痕跡が零れている。
どろりとした白濁。
父がデュオの内部に放っただろうそれ。
苦々しく思い、目に入らないように歩き、子供は扉の前でつと立ち止まった。
中からはシャワーの音がしている。
子ヒイロは服を着たままノックもせずに扉を開けた。





中の様子は湯気が煙ってよく見えない。
けれど人の気配は確実に感じ、そしてそれは子ヒイロの求める相手で。
「………デュオ、」
小さな声で名前を呼んでみる。
びくりと人影が揺れた。
子ヒイロは服や靴下が濡れるのも構わずに、側へと歩み寄った。
「……デュオ…」
デュオの姿がはっきりと視界に入って、しかしその背は背けられたままだ。
「……………」
沈黙が痛い。
「デュオ、…返事をしてくれ」
哀願の声を聞いて、ようやくとデュオの身体が動いた。
ヒイロは、ぺたんと座り込んでシャワーを頭から被り続けるデュオを後ろから抱き締めた。
「……ヒ、イロ……」
戸惑うような音を含ませてデュオはやっと口を開いた。
「…デュオ、……デュオ…」
それがどんなにか嬉しかったのだろう、ヒイロはデュオの名を優しい声音で何度も繰り返した。
ふー、と諦めに似た溜息と同時にデュオが振り返る。
「……しょーがねえな、服濡れちまったじゃん。…脱いでこいよ。
 一緒に洗ってやるからさ、」
デュオはどうしてもこの子供に弱いようだった。
…いや、あの父相手にしてもそうだ。
自分の意志など無視して犯されたのだというのに、デュオはあのヒイロをも嫌えていなかった。
何故だろう。
何故、…嫌えないのだろう。
デュオがそんなことを考えている間、子ヒイロはシャワーに打たれながらじっとデュオのことを見つめていた。
「……どした?」
デュオが首を傾げながらそう問うてやると、子ヒイロは今度は正面からデュオを抱き締めてきた。
「…………、ホント、しょーがねえなぁ…」
ぼやくように言って、デュオはその子供の頭を撫でてやった。





デュオの身体をぎゅっと抱き締めたまま、子ヒイロは動かない。
その行動はまるで何らかの意思表示をしているようで。
「……おい、ヒイロ?」
デュオの声が耳元で聞こえ、その響きを心地よく聞きながらちょっとだけ惜しそうに子ヒイロは腕の力を緩めた。
「…………ほら、手ェ上げて、」
言われるままに濡れた服を脱ぎ、脱がされていく。
こういうのをもしかしたら『母のように』というのかもしれない。

子ヒイロに母の記憶はない。

父に聞こうと思ったことは何度かある。
しかし生き別れであれ死別であれ、それほど執着があったわけではない。
今、ここにいない人物が必要であるとは思えないからだ。
2人の叔父も何も言わない。
ただ父のあの執着の感じから、デュオが何処かしら似ているのかもしれないと思ってみたりはする。
父は母をどう愛したのだろうか。
自分がデュオを思うような、この感情に似ていただろうか。
それとも、………それとも?
「…………おい、どした?」
デュオは子ヒイロにじっと見つめられて、けれど視線は外さない。
「……デュオ、」
「…ん、何?」
ぺたりと。
今度は何も身に付けない素肌を、デュオに触れさせる。
僅かに高いデュオの体温。
それがこの湯の所為か先刻の情事の所為かはわからないけれど。
デュオが子ヒイロに抱き締められることで鼓動を早めたことだけは確実だった。
子ヒイロはデュオの身体を離し、正面に向かい合うようにしゃがみ込んだ。
目の高さを合わせ、首を傾げて顔を寄せる。
どうしても今、デュオに口付けたかった。





デュオは呆気にとられたように、けれど予測していたかのようでもあり。
ゆっくり近付いてきた子ヒイロの口付けを甘受する。
(………ぁ…、)
甘い、とデュオは思った。
初な少女じゃあるまいし、そんなことを考えるなんて馬鹿げている。
しかし子ヒイロのひたむきな感情は痛いほど感じる。
触れ合わせるだけの浅いキス。
何度も触れ合わせる、その合間を縫うように子ヒイロはデュオの名を呼ぶ。
微かな、吐息のような音で。
「……デュオ…」
デュオの背に甘やかな痺れが走る。
ほんの暫く前の情事の火が残っていたのか、身体の奥で燻り始める。
(………どうして)
こんな、子供相手に。
「…ん、……ぁ…」
ひくりと。
デュオの最奥が疼いた。
(………駄目、だ)
警鐘が鳴る。

   イケナイ。
   コノママデハ。

「……ヒイロ…、」
制止を望むべき呼び声は。
ただ、子ヒイロの耳に甘く艶やかに響いただけだった。

子ヒイロの手がデュオの身体をそっと撫でるように動いた。
ぞくりと感じながらもデュオはそれを止める術を知らない。
それどころかもっと触れて欲しがっている自分に気付いている。
(………これは、クスリの効果がまだ続いているからだ)
己を弁護するように。
(………そうなんだ、)
仕方がないと言い聞かせ。
デュオは自分から子ヒイロの方に身体を擦り寄せていった。





子ヒイロの唇がデュオの唇から離れ、頬に触れた。
知らずデュオは泣いてしまっていたらしい。
そっと涙を嘗め取り、宥めるように舌を這わせられ、デュオは瞳を閉じた。
くすぐったくて、デュオは小さく笑った。
「……デュオ」
子ヒイロはそれが嬉しかったのか、尚も啄むようにキスを降らせた。
「…サンキュ、ヒイロ、…もう平気」
にこりと笑って、デュオは子ヒイロの頭を撫でた。
「な、……入れてみねえ?」
デュオは意地悪く言ってみる。
返答は解っていた。
「…駄目だ、……そんな付け込むようなことはしたくない」
「……ははっ、うん、解ってたけどオマエがそう言うだろうって」
「ずるいヤツだな、おまえは」
「…ごめん、聞いてみたかったんだよ」
デュオはちょっと悪びれた風に笑ってみせる。
「………あぁ」
子ヒイロはそれに軽く頷いて、ちゅ、と頬にキスをした。
「……洗ってやるからちょっと待ってろ」
「…え??」
急に何を、と上目遣いにデュオは子ヒイロを見上げた。
「力が入らないんじゃないのか? …どこでも洗ってやるぞ」
子ヒイロはひょいと手を伸ばしボディスポンジを取った。
シュ、と音を立ててポンプ式のボディソープの入れ物から適量をそれに付け、泡立たせる。
「……え、遠慮したいんですけど…」
「今更何言ってる。入れるものが俺のものでなくて手になっただけだろう?」
……………何てことをこんなにもさらりと言うのだこのお子様は。
「観念しろ、…耐えられなかったらやめてやる。……ほら、」
実はデュオの手はまだ細かく震えたままで、子ヒイロの言うとおり自分で後始末が出来る状態などではなかった。
(………うーーーっっ)
泡立てられたスポンジはデュオの肌を滑り、父ヒイロとの情事の跡を少しずつ消していく。





さらさらと。
撫でるような動きはまるでいやらしさなど感じないはずなのに。
(…………うぁ……、…やべ、)
どうしてしまったのだろう、この、身体は。
震えが大きくなる。
…うう。
…すごく。
…逃げたい。
「……わ、わりいけどやっぱいいよヒイロ…」
言葉さえもがどこか揺れている。
気付くだろう子ヒイロは。気付いてしまうだろうこの聡い子供は。
「………駄目だ、」
静かな声音が、しかしきっぱりとデュオのその弱々しい懇願をはねつけた。
子ヒイロは表面に出していないがとても深いところで憤りを感じていた。
デュオがこんな目に遭うのはわかっていた。
自分以外の三人がデュオを気に入ったことなどわかりきっていたのに。
この憤りは自分自身への。
ごし、とデュオの身体を洗っていた手に無意識に力が入った。
「………って…、おい、…ヒイロ?」
子ヒイロは泡だらけになったデュオの身体を構わずに抱き締める。
「……………………悔しい、…」
ぼそりと。
子ヒイロの慟哭がデュオの耳を打った。
「…ヒイロ……」
デュオはどう言っていいのか解らない。
『たいしたことねぇよこんなことくらい』
そう、言うのは簡単だ。
けれど子ヒイロが望んでいるのはそんなことではないような気がする。
「……、な、…やっぱさ、一回、…やろ?」
「…デュオ」
「やろ? …でも、そっとな、優しくしてな?」
「……………、」
抗いようのない甘さの誘い。
子ヒイロがデュオを抱き締める腕が、びくりと揺れた。






………駄目だ。

そう、胸の奥で言っている自分の声が聞こえるのに。
誘ってくるデュオの腕を、瞳を、唇を、もう拒む術がない。
「…………デュ、オ」
掠れた声が喉の奥を熱く灼いて、名前を告げることでデュオに応える。
「…ん、…ヒイロ…」
唇が触れて。
その甘さが意識を攪乱してヒイロはそれ以上何も考えられなくなった。
ソープで滑る身体を合わせる。
くすぐったくて、どこかいやらしくて。
デュオは頭上から降り注いでいるシャワーを強くした。
見る見る泡が流れ落ちていく。
自分の中で激しく打ち続ける鼓動は耳の奥にがんがんと鳴り響く。
「……………、っ…」
何度も何度も飽くことのないキスを繰り返し。
ヒイロはデュオの背に伸ばしていた手をするりと下に滑らせた。
ぴくんとデュオの身体が跳ねて、けれど制止しようとはしない。
秘処に辿り着いたヒイロの指先が先刻の情液でまだ潤むそこを撫でる。
「……う…っん……、」
そっと指先を差し入れると、中はとても熱かった。
「…痛く、ないか? …デュオ……」
「ん、ぅん…へーき、」
その言葉を聞いて、もう少し深く指を埋める。
熱くじわじわとヒイロの指を飲み込みながら蠢く内壁。
声を出したくないかのようにヒイロにキスをねだる唇。
両方に溺れてゆきながらヒイロは中を緩やかに解していく。





「…、ん……、ぁっ…」
吐息が零れるたびに思考が朧になってゆく。
デュオの中を探る指はじわじわと深く埋められて。
「………デュ…オ……、」
名を呼ぶと、デュオはもう耐えられないといった風に首を振って、ヒイロの首に腕を回した。
ヒイロは誘われるままにその熟れた内部に己を沈めていった。
熱く潤む内部は優しくヒイロを包み、締め上げる。
「……ん、…ん、…んんっ………!」
声を上げないように噛みしめるデュオの唇を、ヒイロは再び口付けることによって解かせた。
そしてそのまま喘ぎを自分の口内に取り込んで。
「…、ん…、っっ…!」
ヒイロはデュオのなかで自身を解放し、デュオもまた果てた。



意識を飛ばしくったりと腕のなかに倒れ込んだデュオを、ヒイロは愛おしそうに抱き締めて、それから後始末を終える。
デュオの後口はまだひくついて、指を入れるとぴくりとその身体を跳ねさせたが、起きる気配はなかった。
降りしきるシャワーが二人を包んでいたが、ヒイロは今ようやく気付いたように仰ぎ正面から受けた。
…まるで何かを振り切るように。

デュオをバスタオルでくるみ、子ヒイロは自分の服とデュオの服を取りに行こうと浴室を出る。
そこには当然のように父がいて、静かに紫煙を燻らせていた。



悠然と佇むその姿に、おそらくは嫉妬であるだろう感情が芽生える。
「……………」
無言で横を通り過ぎようとする子ヒイロに父が声を掛ける。
「…悦かっただろう? あの身体は」
揶揄する響きをたっぷりと含ませながら言うのに、子ヒイロはぎっと父を睨み付けた。
「…おまえと一緒にするな」
「何のことだか、な」
「…………おれは、性欲の捌け口としてデュオを抱いたわけじゃない。
 おまえたちとは…違う」
そこまで言って、ふいと俯く。
説得力がない。
そうだ、わかっている。
デュオに抱いている気持ちは確かに綺麗なものだと思うけれど、自分だって父と同じ事をしている。
結局はデュオを抱いたのだ。
自己嫌悪に苛まれながら、それでも父や叔父たちとは違うと思いたかった。
デュオに惹かれて、ただ守りたいとか。側にいたいだけだとか。
そんな綺麗な気持ちだけを持っていたかったとは。
…言い切れないのだ。
「…聞くまでもないな、おまえの考えていることはすぐわかる。
 ただ、覚えておけ。…おまえのしたことはどう言いつくろったところで俺のしたことと同じなんだということをな」
どこか嘲笑を交えた語り口で父が言った。
ぎり、と唇を噛みしめる。
敵わないのだ。
デュオと釣り合わない年齢だと思い知らされて。
スタートラインは同じじゃない。
自分にはデュオを守れる大きな腕も、力も未だ全然足りない。
あるのはこの気持ちだけだ。
それすらも、今は揺らぎ掛けている。
子ヒイロはもう言い返せなくて、黙ったまま部屋を出てゆこうとする。
その背後から声が掛かる。
「…デュオは俺が部屋に連れていく。どうせおまえには運べないだろう?」
バタン!
大きな音を立てて、扉が閉まった。





「………さて、と」
ヒイロはゆったりと腰掛けていたソファから立ち上がり、浴室に足を向ける。
熱気のこもった中にはデュオが横たわっていた。
気を失っているその身体をそっと抱き上げ、身じろぐのをあやすように唇で額に触れた。
「……ん……っ……」
ヒイロはそのまま脱衣所を出る。
先刻脱がせた服を再び着させるわけにもいかず、瑠璃を内線で呼んで服を運ばせることにする。

コンコン。
ノックの音がして、大して間もおかず瑠璃が現れた。
「…旦那様、デュオ様の服をお持ちいたしました」
「入れ」
「失礼します」
かちゃりと静かな音とともに瑠璃が入ってくる。
そして黙って着替えを置いてすぐに部屋を辞す。
……………良くできたメイドだ。
ヒイロは手際よくデュオに服を着せ終えると、またそっと抱き上げてデュオに与えた部屋へと運んだ。
(…起きたときの反応が見物だな、)
そう思いはしたけれど。
…デュオを一人残した部屋のドアが、閉まった。



(………悔しい、)
子ヒイロは自室に籠もってベッドの上に突っ伏した。
(…悔しい、悔しい、…悔しい)
唇を噛みしめるが、悔しさは収まらない。
どうしようもないことでも。
そう解っていても。
(…………明日、どんな顔でデュオに会えばいいんだろうか)
そんなことを思いながら、子ヒイロはいつしか眠りに落ちた。





…ちゅんちゅん。(古典的)

結局明朝10時までデュオが目を覚ますことはなかった。
(瑠璃も何故か起こしに来なかった)
身体の疲れからか精神的な疲れから来たものからかは解らない。
おそらくは両方の所為であるのだろうが。
デュオは柔らかいベッドの中でぱたりと寝返りを打った。
「……んー……、今…何時だぁ…?」
…ごそ、と手を動かして昨日の朝と同じ事をしている、と気付くのにたっぷり12分は費やしただろうか。
ああ、オレはあのアパートにいるんじゃなかったっけ。
そいで、一昨日からこのうちに住み込むことになって。
…えーと、
「…………………、」

ちょっと待て。
ちょっと待て。
昨日のアレは夢だったんだろうか。
そうだ、夢だったに違いない。きっとそうだ。
希望的観測。

デュオは祈るような思いで昨日のことを反芻してみる。
ここの当主のヒイロ・ユイ(27)に眠り薬と恐らくは催淫剤であろうものを盛られて、己の意志とは関係なく抱かれたこと。
腰が何だか重怠いのはその所為だ、それは諦めてもいい。
だがしかし。
…その後がいけない。
デュオは子ヒイロを「誘って」しまった。
これはどうにもやってはいけないことだった。
何で。
どーしてあの時の自分はあんな事を言ったりやったりしてしまったんだろう。
そりゃ、自分はもう17だし、父ヒイロに抱かれたところで犬にかまれたとでも思えば大したことはない。
(あんまり思い出したくはないが)オレの身体は「悦かった」らしいし。
オレ自身がそんなにイヤでなかったことが悔しいが、それは致し方ない。
「イヤじゃなかった」ことが何故なのかはわからないが。
それよりも、だ!
…子ヒイロどんな顔で会えばいいんだろう。
後ろめたい。
ものすごく、後ろめたい。
穴があったら入りたい。…しくしくしく。
タイムマシンがあったらあの時の自分をどうやってでも止めてやるのに。
「…………う゛ー………」
デュオはベッドに俯せに突っ伏したまま、唸った。

子ヒイロのことが気になって、自分が襲われたことがどうでもいいことに思えてしまった単純なデュオだった。





「…………うー…どーしようー……うー…」
ごろごろと往生際悪く寝返りを何度もうちながら、しかしこんな事をしていても埒があかず何の解決にもならないと考え、漸くベッドの上に起きあがる。
「………男らしく責任を取らなきゃなー」
どこか不思議な思い違いをしていることに気付かないままデュオはクロゼットの扉を開け、そして一番目に付く箇所にメモ付きでたたんである服を手に取った。
『デュオ様へ。おはようございます、瑠璃です。
 お目覚めになったらこちらの服にお着替えになって当主様のお部屋にお越しくださるようにとの伝言です』
「……………あー…もう、」
昨日の今日で会いたくはなかったが、これも致し方ない。
デュオは用意されていたその服(今回はタイト系のメイド服だ)に着替え、部を出た。

てくてくと廊下を歩きながら考える。
「…解雇ってこたーないだろうけど、…まあそれでもいいけど…友達んとこ泊めてもらいながら次の職探せばいいし……それよか子ヒイロだよな…ちゃんとガッコ行ったのかな…あんなことしちまって顔合わせづらいけど出来れば謝りたいしなあ…まさか顔も見たくないって言われたらどうしたらいいんだろう…
うーんうーんうーん…」
俯いてぶつぶつと言いながら歩いていたものだから、デュオは廊下を歩いていく途中で誰かとぶつかった。
どん。
「…ってて…、すいません…、…あ」
その誰か、とは2番目ヒイロで、彼はデュオを見て口の端で笑った。
「おはよう、デュオ。…昨日はお楽しみだったらしいな?」
「−−−−−!!! な、何言って…!」
「面白いものを見せてやるから俺の部屋に来い、…後でな」
有無を言わせぬ調子で2番目ヒイロが言うのに、デュオは何故か逆らえもせず首を縦に振っていた。
「…………はい、」
(何で、…何で逆らえないんだオレの馬鹿ー!)





デュオは当主ヒイロの部屋の戸を開ける前に一度大きく息を吐いて、それから意を決してドアをノックした。
「…デュオです、入って良いですか?」
「ああ、待っていた。…おいで」
デュオは静かに扉を開け、ばくばくいう心臓をおさえながら中に入った。



「…し、失礼しまーす。…………」
部屋に入った途端のヒイロの視線が痛い。
「どうしたデュオ、何をそんなにびくびくしているんだ?」
てめえのせーだろ、と言いたい気持ちを押し殺してデュオはヒイロににっこり笑ってみせた。
「いや、別に? …用って何?」
急に、雇われたときの条件を思い出して言葉遣いを直してみる。
雇い主に対する応対ではないとわかっていても、もうどうにでもなれ、という感情が交じっているのは否めない。
デュオは早鐘のように打っている鼓動を気取られないように、ヒイロの顔を見据えた。
「…ああ、大した用じゃない。昨日の感想を聞かせてもらおうと思ってな。
 それと、このままうちで働く気があるかどうかも聞いておこうか?」
どうにも含みのある台詞に聞こえるのはデュオの気のせいではあるまい。
「感想は昨日言ったはずだよな? 確か。それ以外に聞きてーの?」
目一杯の虚勢を張って、ヒイロを睨め付ける。
「他に言いたいことがあるのなら、な。聞いてやってもいい」
それに対するヒイロの台詞はあくまで冷静そのものだ。
「……あんたにやめさせる気がねえんなら、オレはどっちでもいい。
 すぐに出てってもいいし、このままここにいてやってもいい。
 オレはあんたが決めたことに従ってやるよ」
そう、デュオの口をついて出たのがその台詞だった。
デュオは自分でも何故そう言ったのかがわからなかった。
ただ負けたくないと思ったのか、それとも、この家の人間から逃げたくないと思ったのか。
このままこの家を出ていったところで、また次の人間が雇われるのだろう。
その人間がここの住人の気に召すかどうかはデュオの知ったことではない。
けれどデュオは。
もう既に己がこの家の住人らに囚われてしまっていることに気が付いた。
自分は確かに惹かれている、多少の差はあれど恐らくは4人のヒイロ全てに。
だから逃げない。
子ヒイロからも、この当主からも。そしてあとの二人からも。
自分がどうなってしまうのか、わからない。
それでも、何故かここにいたいと思うのは。

−−−あの、甘い香りの所為だろうか。

「…いい覚悟だ。その覚悟に見合っただけのことはしてやろう」
ヒイロは極上の笑みを浮かべる。
いつからか、デュオの鼓動は通常のように脈打っていた。





(覚悟に見合っただけのこと…?)
デュオは頭の中で台詞を反芻してみる。
何をされるのか、デュオはとんでもない考えに行き着いてしまいそうになって慌てて頭を振りその思考を中断した。
「どうした?」
「…いやっ、何でも!」
まずった。少し顔が赤くなっているかもしれない。
「そうか? ああ、用事はそれだけだ。もうさがっていい」
「え、あ…うん、わかった」
無意識に身構えていた自分に気付き、デュオは力を抜いた。
「何かされることを期待していたのか?」
追い打ちをかけるようにヒイロが言う。
「んな…わけ、ねーだろっ!!」
「夜、身体が疼いて寝られないようならいつでも来い。可愛がってやる」
そう綺麗に微笑まれてはデュオはもう降参及び退散するしかできない。
「失礼しましたっ!」
尻尾を巻いて逃げる、というのはこういう行為を指すのだという見本のような素早さでデュオはその部屋から出た。
大きな音とともに扉が閉まった。

はー、はー、はー、はー…。
デュオは閉まった扉に背を凭れかけさせて忙しく息を吐く。
恐ろしい。
何でヒイロたちは全員あんなに行動とか台詞がいちいち凶悪なのだろう。
「……………負けそう…」
どうやら既に負けてしまっていることをまだ完全には認めたくないらしい。
漸く息が整って大きく息をついた後、デュオは2番目ヒイロとの約束(とゆーか一方的な呼び付け)を思い出し、もう一度改めて溜息をついた。

結局デュオは振り回されっ放しなのである。
ときに現在時間は12時。
今日は平日であるから子ヒイロが帰って来るまでにはまだ時間がありそうだ。





デュオは2番目ヒイロの部屋の前で立ち止まる。
どうせろくでもないことで呼ばれたのだとは思うのだが。
それでもココにとどまることを決めた以上は己のすべき事がある。
コンコン、と2度ほど軽いノックをして、軽いいらえがあったのを受けてからデュオは思い切って扉を開けた。





ヒイロは部屋の真ん中で立ってデュオを待っていた。
至極楽しそうに見えるのはデュオの被害妄想か。
「来たか。…結構早かったな、あいつのお相手はしなくて良かったのか?」
明らかに嘲笑の混じった口調で言われて、デュオはむっとしつつもヒイロの用件を伺うために一歩近付いた。
「…何の御用でしょう?」
「怒ったのか? そういう表情にもそそられるがな」
「ご・よ・う・け・ん・は?」
デュオはこれ以上ないくらいにぃっこりと微笑んだ。
しかしまだ修行が足りなくて口端に歪みが見られるのは如何ともしがたい。
ヒイロはそんなデュオを何か面白いものでも見るようにまじまじと見る。
「………本当に面白いな、おまえは」
「(ぷち)用件は何かって聞いてんだよ!!」
「だが躾がなってない、」
「何が……!」
デュオはヒイロの腕に腰を絡め取られた。
そのまま引き寄せられ、互いの唇が触れるほど顔を寄せられる。
流石にデュオの動きが止まった。
「っ、離せよっ…!」
そしてその口を塞ぐように口付けられる。
「んーーーー…!」
何か言おうとしたデュオの唇の隙間からヒイロの舌が滑り込んできた。
熱く意志を持ったそれはデュオの口内を蹂躙し、逃れようとした身体はますます強く抱き締められ身動けない。
ヒイロの舌はそんなデュオを宥めるようにゆっくりと優しく口内を探り、次第におとなしくさせる。
いつしかデュオの瞳は閉じられて、その動きに応えるようにまでなった。
随分と長くそうしていて、ようやくデュオは解放された。
「…じゃじゃ馬をおとなしくさせるのはこれが一番効果的だ」
「………だ、誰が……!」
デュオはぐったりとして碌に反論さえ出来ない。
「瞳が潤んでいる。…気持ち克かっただろう?」
がるるる、とデュオはヒイロを上目遣いで睨んだだけにとどめた。
デュオの身体はまだヒイロの腕の中に縫い止められたままで、下手に逆らうともっととんでもないことをされそうな気がしたからだ。
そしてそのイヤな予感は今まさに現実になろうとしていた。





「………デュオ、」
ヒイロがデュオの耳元で名を呼ぶ声は甘いトーンで熱い吐息とともに響く。
デュオはそれに微かに身を震わせ、ヒイロの腕の中で身体を竦ませた。
頬が熱い。顔が赤くなっているのはもう間違いない。
「…離せってば、ヒイロ…」
駄目元と思いつつも小声で抗議してみる。
「…………デュオ…」
ヒイロの唇はデュオの耳元から頬を伝い、首筋に触れるだけの愛撫を与えた。
「……ゃっ…やめろって…」
ヒイロの片腕はデュオの腰をしっかりと抱え、もう片方の腕はデュオのスカートの中に入り込んでくる。
デュオは例によってトランクスを履いているが、タイトのスカートを無理に捲り上げ、その中に潜り込んで更に奥へと浸食しようとするヒイロの手はまるでそれ自体が意志を持ってデュオを弄ぼうとするかのように蠢く。
ヒイロの手は殊更にゆっくりとデュオの肌を撫でる。
デュオはその動きに立っていられなくなるが、腰を抱いて支えているヒイロの腕はデュオがくずおれるのを許さない。
デュオの下着の中に入ってきたヒイロの手は、その自身が緩く勃ち上がっているのを知って愛しそうに包んだ。
「……ぁ…っ、やだって……やめ…!」
デュオの声に艶が混じり始める。
その身体には昨日当主ヒイロに教え込まれた性感がデュオ本人の意思とは関係なく深いところに染みついている。
そしてその行為がどんなにか気持ちの克いことだったのかは記憶に新しい。
事実デュオのそれは触れられるだけで嬉しそうに一滴の雫を零した。
ヒイロは上気したデュオの頬に口付ける。
そして触れていたデュオの自身をそっと離すと、すぐ側のベッドにデュオの身体を横たえた。
デュオはもう抗おうという気がだいぶ失せてしまったようだった。
悔しそうに唇を噛みしめているが、自分ではどうにも出来ない身体の疼きをこの目前の男に鎮めてもらうしかない。
「……………」
この部屋に来る前にこうなることはわかっていた。
何故この家の人間がこうもデュオに執着するのかはわからない。
けれど、デュオはもう逃げられないのだ。
否、逃げる気がないのだ。
「……どうした、急におとなしくなったな」
ヒイロはからかうようにそう言ったが、まるで予想していたかのような口振りでもあった。





「……どーせ、逆らうだけ無駄だろ…」
デュオが掠れたような声でそう言うのに、ヒイロが意外だと言いたげに返す。
「弱気だな」
「違う、…処世術っつーんだよ、こーゆーのは」
目を閉じているデュオの耳に微かに息が掛かった。
どうやらヒイロはそれを聞いて笑ったらしい。
「処世術、ね。…それにしてはおまえの身体は悦んでいるように思えるが」
「……そりゃ、オレはオトコだし? 気持ちいいことは嫌いじゃないからさ」
デュオはわざと擦れた様子で言ってのける。
「その台詞を額面通りに取るほど俺たちを単純だと思っているのか?
 …まあ、それはそれで面白い、か」
ヒイロはデュオの上にのし掛かりながら手際よく衣服を剥いでゆく。
「………っ…、」
少しずつ時間を掛け、デュオの感情と表情の反応を楽しむように。
そしてふと、ヒイロの手が止まった。
「…そうだ、これを見せるために呼んだんだったな」
そう言いながらヒイロはベッドサイドにおいていたリモコンを手にとって、いくつかのボタンを操作した。
何かの機械の起動音とテープの回る音。
デュオがその音のした方を向くと、ワイド画面のテレビがついている。
かなり鮮明な画像が目に飛び込んでくる。
人が二人映っている。
よくわからないまま眺めていると、ヒイロがまたリモコンを操作したのか音声が大きくなった。

『………………ヒイ、ロ………』

まさか。

『……ぁ…あ……、や、…ヒイロ……ッ』

「っ、こ、こ、ここここれっっ!!」
「……下のの趣味でな、昨日のあいつとおまえのセックスは逐一撮られていたというわけだ。結構映りはいいだろう?」
「…あ、」
悪趣味にも程がある、そう言おうとしたデュオの口はけれどすぐにヒイロのそれによって塞がれた。
「……ぅんんんっ!!」
そうされている間もデュオの耳にはいやらしい音と己の声と当主ヒイロの声が途切れることなく聞こえ、聴覚からも犯されていくようだ。





耳に届く自分の声が酷く甘く聞こえる。
「……ん、ん…っっ、…ゃ…」
荒くなってゆく息遣いはどちらの自分のものなのだろう。
もうだいぶ慣れてしまってきている室内の甘い香りとそれは混じり合う。
耳を犯す声と音と。
目前のヒイロと絡め合わせている舌は、自分の意志とは意を異にするように己からもきつく吸い付いている。
ヒイロはデュオを全裸にしたものの、直接的な愛撫をすることなくキスだけでデュオを追い上げていた。
長いキスを貪り合うように続けて、デュオは次第に熱を持ち始める下半身を持て余しかけている。
「………っぁ…ふ…うっ…」
漸くキスが途切れ、名残惜しそうに唇が離れる。
「……デュオ、」
耳元で囁かれると、デュオの腰が微かに揺れた。
「…声だけでも、感じるのか?」
台詞の割には揶揄を含んでいなくて、どこか嬉しげな響きが混じっている。
デュオはしかしその響きには気付かず、顔を真っ赤にしてヒイロの耳朶に噛み付いた。
「………あんたらの声は凶悪なんだよっ! 自覚ねえのっ?」
「…さてどうだろうな。自らのことは得てして理解しにくいものだからな。
 その台詞をそっくりそのまま返してやろうか?」
ヒイロはそう言ってデュオの手を取り、未だズボンを履いたままの己の下半身に触れさせる。
布地の上からでもわかるその怒張に、デュオは慌てて手を離そうとしたがそれをヒイロが許すわけもなく、自身のカタチをなぞらせた。
「……やめっ、この…!」
「どうだ? わかるだろう? おまえの中に入りたくて漲ってる。
 だが俺は生憎と我慢の聞く性分でね、おまえを充分楽しませてから挿入っても大丈夫だ。…良かったな」
そう言うとヒイロは綺麗な笑みをデュオに見せた。
こんなにも自身があからさまに性欲をあらわしているのに、その表情には微塵もいやらしさが浮かんでいない。
「………よ、よっぽど、経験が豊富ってこと?」
「…男相手は初めてだが、おまえの顔も声も反応も好みだ。
 しかもほとんど人の手が付いてない…征服欲はそそられるな」
「んなもんそそられなくていいっ!!」
「もう遅い」
ヒイロはもう一度微笑むと、そのままデュオの首筋に口付けた。





小さな痛みが瞬間的にデュオの意識を覚醒させた。
「……っっ、」
ヒイロが吸い付いた跡は赤い鬱血となってデュオの首筋を彩る。
鮮明に付いた跡をヒイロは舌でそろりと嘗め、僅かな身体の震えに愛おしさを感じて尚もじわじわと煽り立てるようにゆっくりと舌を滑らせた。
「…随分と可愛がられたものだな」
ヒイロはデュオの身体中に残る昨日の情事の跡を見て言った。
「………るせぇ」
反論する言葉も掠れがちだ。
「……そうだ、浮気した恋人を仕置きするように抱いてやろうか」
「はあ?」
何をいきなり言い出すのだこの男は。
「セックスにシチュエーションを設定するのも楽しいだろう?
 兄に寝取られた恋人に対して、可愛さ余って憎さ百倍というところか」
そう言うとヒイロはベッドサイドから白く丸い瓶を手に取った。
この家の男たちのベッドにはみなそんなものが常備されているのだろうか。
…あああ考えたくない。
デュオがふるふると首を振って自分の考えを打ち消しているのをヒイロは面白そうに眺め、しかし手だけは器用にその瓶の蓋を開け指先で中身を掬いとる。
その手はするりとデュオの股の間に移動し、秘部に到達した。
冷たいジェル状のものがデュオの下の口に触れたかと思うと、ヒイロの指先はその周辺を撫でるように動き、デュオが息を吐いた瞬間にそっと中に押し入った。
「………んぅっ、や、…何…」
ヒイロの冷たい指先が1本だけ、ジェルの滑りを借りてすいと根本まで入る。
「意外に容易く入るものだな」
どこか感心したようにヒイロは言った。
「……、そーいや、…男抱くのは…初めて…って…!」
デュオの台詞を全部聞く前にヒイロの指が内部で曲げられた。
その動きはゆっくりとしたものだったが、一瞬一番敏感なところに触れられ、デュオは腰が跳ねるのを止められなかった。
「…そうだ、おまえが初めてだ。
 初めてだが、おまえを傷つけるようなことはしない。
 今までに抱いたどの女よりも優しく抱いてやる」
ヒイロは内部に差し入れた指はそのまま、伸びをしてデュオの唇を啄むようにキスをした。
「……ん………、」
この男はキスが好きなのだろうか、と思う。
回数を重ねるたびそれは優しく甘くなってゆく。
次第にとろんとする思考の中で、デュオはそんなことを考える。
そして、緩やかにデュオの中が蠢くのに合わせるようにヒイロの指がゆうるりと動かされた。







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