こいのばかんす。






「…うわ、こりゃ駄目だ完全にイカレてる。……どうするよ、ヒイロ?」

とある資源衛星。
ヒイロとデュオはつい数時間前、小型シャトルの不調の原因を探るためにレーダーに映ったこの資源衛星に不時着した。
何のために2人で小型シャトルに乗っていたのかというと…秘密だ。
とりあえずヒイロに下心があったということだけは教えておこう。
……………実は新婚旅行のためだったなんて言えない。
[婚前旅行]だという意見もまたなきにしもあらずだ。
無人の資源衛星。
どこの金持ちの道楽だか、そこはさながら【楽園】のミニチュアだった。
見渡す限りの花畑。…花畑??
観賞用の花ではない。どうやら野菜の花のようだ。
カボチャ・キュウリ・トマトの黄色い花、ナスの紫の花。他他他。
……見たことのないような花もあるが、あれも食べ物の花なのだろうか。
つまりは訂正。花畑ではなく、野菜畑なのだ。見渡す限り。一面の緑。
そして冒頭でデュオが言っている「イカレている」ものとは散水機。
着陸する際に僅かに触れてしまったようで(このとき運転していたのは察しの通りデュオだ)故障したもようだ。
「……どう、とは? このままにしていくわけにもいかないだろうが」
しかし、ここは一体何故このようなカタチで存在しているのだろうか。
「…そーだよな、壊しちまったものは…直さねーとなぁ…」
それは正論だ。
バッくれる、と言わなかっただけデュオも人間的に成長したらしい。
ヒイロはちょっと意外なことを聞いたように目を瞬かせた。
「…結局シャトルは簡単な修理で直ったからな、このまま帰っても」
いいんだが、と言おうとした背後のヒイロにデュオは振り返り、睨め付ける。
「駄目だぜぇヒーロさんそんなこと言ってちゃ。
 …責任は取んなきゃなー、」
そう言うデュオは何故だか嬉しそうだ。
ヒイロもそれを見て小さく溜息をついただけで、それ以上の反論はしなかった。



誠にあっさりと。
まぁ、この2人の手に掛かって手こずるとも思われなかった散水機の修理に要した時間は、ものの見事な10数分という感じだった。
元々そうひどく接触したわけでもなかったようで。
破損、というか主に歪みだが、機械を作動させるには支障がなく。
散水機は始動時に少々ガタガタいったがすぐに正常運転を始めた。

「…何だ、こんな簡単に直っちまうとつまんねーな、ヒイロ?」
「馬鹿を言うな。直らなかったら困るだろうが」
「誰が?」
「おまえじゃない、ここの野菜畑だ。生きているものだろう?」
デュオは真面目くさった様子で言うヒイロの表情にふと笑う。
「……………何がおかしい」
「だって、オマエがそんなの気にするなんて思わなかったからさ。
 …な、ヒイロ。ここにしばらく滞在すっか?」
「何を」
「さっきさ、機械の後ろ点検してたらさー[整備予定日]が書いてあっ
たんだよ。あと、ちょーど2週間後だって」
にこにことデュオはとても上機嫌である。
「………………おまえは、そうしたいのか、デュオ」
「そう。いーじゃんどうせ暇なんだし。食いもんたくさんあるしー」
確かに。
確かに見渡す限りの野菜畑で。新鮮だよね、採りたて野菜。
しかしもう花の咲いて、収穫も間近だろう野菜を放置しておくつもりなのか、ここの持ち主は。
とか何とか。ヒイロの考えていることがわかったのか、デュオが言う。
「あ、それはさヘーキみたい。収穫して勝手に発送できるらしい。
 …いやー、最近は何でもアリなんだなー感心したぜオレは」
…いいのか本当にそれで。
「わかった。おまえの気が済むまで付き合ってやる」

かくして2人はこの[楽園(仮)]に滞在することになったのだった。


「…さぁて、」
うーん、と両腕を天上に向かって拡げ、デュオは大きく伸びをする。
「そうと決めたらまず散策。散歩しようぜヒイロさん」
非常に上機嫌な様子でデュオがさくさくと歩き出した。
ヒイロは黙ってその後をついてゆく。
彼としてはデュオが楽しそうであるなら別に何もかもがどうでもいいのだ。自分の希望は二の次だ。
「…あ、あの赤いの! 苺だよな?」
ぱたぱたとデュオが走り寄る。
その先には深緑色の葉っぱの中に見え隠れするルビー色の果実。
ひょい、とデュオが一つ摘んでそのまま口に入れる。
「デュオ!」
どんな薬剤が付いているかしれない食物を、どうしてこいつはこうも簡単に口に入れてしまうのだろう。
「美味いよ、コレ。ヒイロも1個食べてみろって!」
ヒイロの口元に苺をあてがうデュオの指先が赤く染まっている。
「……、」
ヒイロは、そのデュオの指先ごと苺を口に含んだ。
甘酸っぱい果実の味が口内に広がる。
「な、美味いだろヒイロ? …も1個食う?」
「…ああ」
今度はヒイロがしゃがんでつやつやな苺を1つもぎった。
蔕を取ったその苺をデュオの唇に押し充て、ヒイロは顔を寄せた。
デュオが意図を読みとって、瞼を伏せる。
苺を半分。
甘酸っぱさを分け合って、キスをする。
「………んっ……」
赤い汁がデュオの顎を伝い落ち、唇を離したヒイロの舌がそれを追う。
ヒイロが顔を上げたとき、デュオは照れくさそうに笑っていた。
「……よくこんな恥ずかしいことするよな、オマエ」
少々非難じみたことを言いながらも、口元は笑んだままだ。
そしてデュオは照れくささを隠すように背を向けたままヒイロの前を歩いてゆく。
「苺よりおまえの方が美味そうだったからな」
一瞬の間。
「………………マジで言ってんのソレ」
つと、デュオの歩が止まった。
「あぁ」
事も無げにそう言い切るヒイロ。
ゆっくりとデュオが振り返る。
「……やっぱ帰る」
「デュオ?」
「帰るったら帰る!」
くる、と反転してデュオがヒイロの横をすり抜けて行こうとする。
それを黙って見過ごすヒイロではない。
瞬時にデュオの腕を掴み、そのまま自分の胸元に引き寄せた。
「…デュオ、…どうした?」
じたじたとデュオが腕の中で暴れている。
ヒイロはデュオの顔が真っ赤になっていることに気付いた。
「っ、てーそーの危機を感じるよーなこと言うからだオマエがっ!!」
ふー、ふーっと毛を逆立てた猫のようにデュオが息を吐く。
「貞操の危機?」
「うー………っ」
「どうした、何が気に食わない? 本当に帰りたいか?」
子供をあやすようにヒイロがデュオの身体を柔らかく抱き込み、背を撫でる。
「…違う、何かドキドキすんだよ、やなんだよっ!」
目をぎゅっと瞑って、デュオがイヤイヤをするように首を振った。
ヒイロには訳が分からない。
「……な、何か…何だろ、心臓がばくばくいってる、…」
「…苦しいのか?」
「………わ、わかんねぇ…何か、イヤな感じがする…っ」
何故かデュオがひどく情緒不安定になっている。
ヒイロは腕を動かし、デュオの額に触れてみた。少し熱い。
「……おまえ、少し熱があるな。…怠いか?」
うっすらと頬が紅潮している。でも何だか少々様子がおかしい。
「…ちがっ、そーじゃなくて…っ、熱いだけ……」
ふるふると小刻みに身体が震えている。
「………デュオ」
ぎゅ、と心持ち強く抱き締めてやる。
「あ…っ!」
するとデュオの唇からいつもより僅かに高いトーンの声が発せられた。
甘く濡れた声だ。
そう、通常時には絶対に聞けないはずの声。
「デュオおまえ、…もしかして……」
背に回した腕を左腕はそのままに、右腕だけを動かしてデュオの首筋に触れ、それから顎を撫でる。
びくびくびくっ、とデュオが身体を大きく揺らした。
「…感じて、いるのか?」
「……言うなよっ! …何か、だって何か変なんだよここの匂い…っ」
デュオが顔を真っ赤にして横を向き、目をぎゅっと瞑った。
「…匂い?」
ヒイロには何も感じない。
あるのはただ、土の香りと緑の香り、微かな花の香りくらいのものだ。
「……デュオ、…辛いのか?」
「………っ、離してくれよっ…腕…っ!」
逃れたいらしく、デュオがヒイロの腕の中で身体を捻らせる。
だが、そうすることで却って自らを追いつめることになってしまう。
「うーーーーっ……」
じわり、とデュオの眦に涙が滲む。
これにはヒイロも驚いてしまって、思わず腕の力を緩めてしまった。
ヒイロは今までデュオの瞳が濡れたところを見たことがなかったのだ。
デュオはそのまま土の上にへたり込んだ。
本当に身体に力が入らないらしい。
「…大丈夫か?」
「…………大丈夫じゃ…ない、けど…オマエに触られたくない……」
小声で呟くようにデュオが言うのに、ヒイロは伸ばし掛けた手を止めた。
「……そう、か」
デュオの言いたいことはわからないでもない。
しかし随分な言われようであることだけは確かだ。
心の余裕というものがなくなってきているのかもしれない。
デュオは小さな子供のようにうずくまって震えている。
「………うーー、嫌だもう……」
あぁ、だからもしかしてココには平常時に人がいないのだろうか。
この衛星の目的は『野菜を作る』ことではないのかもしれない。
普通の、『野菜』では。ないのかもしれない。
そう思い至ったのは、ココに着いてから口にしたものがあの赤い苺だけだったからだ。
「デュオ、そのままじゃ苦しいだろう?」
暫し考えた後、ヒイロはきっぱりとした口調で言った。
びくっとデュオはまた身体を揺らして、それからゆっくりと顔を上げ、ヒイロの顔を見つめた。
「……嫌かもしれないが…俺と、寝る、か?」
先程とは違って、ひどく歯切れの悪い調子でヒイロが言う。
途端、デュオは更に顔を赤くした。
「…ば、バカやろっ、…何言って…っ!!」
「それとも一人で収まるまで待つか、もしくは自分でするかだ」
デュオにもわかっていた。
この感じは性衝動だ。きっと一度はイかないと収まらない。
となると二択だ。ヒイロとヤるか自分自身の手でヤるか。
頭がどちらも拒んでいる。
ヒイロを嫌いなわけはないけれど、こんな場面でこんな場所でなんて。
「………っ、…何で…こんな…」
もう息が上がってしまっていて、上手く喋れない。
「…良く調べもせずに不審なものを口にするからだろう。自業自得だ」
「…………苺?」
「多分、な」
「…じゃ、じゃーどーしてオマエは平気なんだよっ!!」
至極尤もな反論である。デュオは正しい。
「知らん。体質や免疫の違いじゃないのか」
「…んな、バカな…」
力無い様子でデュオが項垂れる。
「で、どうする? デュオ」
ヒイロが問う。デュオの身体はもう限界に近かった。
「………………………うー……ヒイロ、」
「あぁ」
「…ホントはっ…ヤだけど……」
潤んだ瞳で、デュオはヒイロを見上げる。
「……………頼むよ……このままじゃ…辛い」
「俺がヤるので、おまえはそれで、…いいんだな?」
意地の悪い問いだと思う。でももうそれに反撃もできない。
「……………………ぅん…………」
デュオが、ほんの僅かに頷いた。
聞き取れないくらいに微かな了承と共に。
ヒイロがそれを聞いて微笑ったかどうかはデュオには判らない。
もう、何も考えられなくなっていたのだ。

ヒイロは自分の上着を土の上に敷いて、そこにデュオを寝かせた。
そしてゆっくりとデュオの服を脱がせていく。
衣擦れるだけでデュオはびくびくと震え、ヒイロがシャツの前をはだけて指を触れさせると、小さな声が上がった。
「……、あ…っ」
ヒイロは続けてデュオのジーンズのベルトとボタンを外し、前をくつろがせると下着の中からデュオのものを取りだし外気に晒した。
「…ひぅっ…、ん……っ」
デュオはもう口を塞ぐための腕を動かすのすら辛そうで、この一種拷問とすら言えそうな接触に耐えていた。
「………ううっ……」
気持ちが悪い訳じゃない。
けれど感覚が鋭敏すぎるのだ。僅かな刺激でも克すぎてしまう。
「……デュオ、」
耳に届くヒイロの声は何だか気の毒そうで。
こんなふうに労ってもらうのは初めてのことかもしれない。
何にせよ、一刻も早くこの責め苦から逃れたいと、デュオが思うことはそれだけだった。
甘い感傷なんてドコにもない。
自分の手でしたところで時間が掛かってしょうがないのでヒイロに頼んだ。それだけなのだ、とデュオは自分に言い聞かせた。
しかし存外にヒイロの愛撫は優しかった。
デュオはソレを望まないのに。
「……ヒ、イロッ……、やめ…もー、勘弁っ…!」
早く、ただ早くこの持て余すような熱さから解放されたかった。
つ、とヒイロが唇を噛んで、デュオのソレを解放に向けて扱いた。
触れるだけで震えたソレは二、三度上下しただけであっさりと弾けた。
びくりと身体を揺らし、しなるように背が反って白濁を散らす。
「…………っっ!!」
デュオが息を飲んでその衝撃に耐える。
「…デュオ」
ヒイロが名を呼ぶと、デュオは止めていた息をゆっくりと吐き出した。
「……………ゴメンな…サンキュ」
にこりと、デュオが弱々しく微笑った。
ヒイロはその微笑みを見て一瞬辛そうに眉をしかめた。
そして起き上がったデュオの唇にそっと己のそれを合わせた。
「…………!?」
デュオは避けきれずにその口付けを受ける。
そのままデュオはもう一度土の上のヒイロのシャツの上に横たわることになった。
やわらかな口付けが何度か繰り返される。
「……ヒイロッ…?」
ヒイロの唇が離れた瞬間にデュオはヒイロの名を呼んだ。
制止の響きではなくて、どちらかと言えば疑問のこもった響きで。
その瞳は『何故?』と問うている。
「…っ、デュオ…、抱いて、いいか…?」
「………へっ?」
頭上から見下ろしてくるヒイロを、デュオはまじまじと見つめた。
「何? 言うこときいた代わりにヤらせろ、ってーの?
 オレの…あんな姿見て、欲情しちまったとか言うわけ?」
「違う! …違う、俺は…」
即座に否定が来て、デュオは少々怯んだ。
「…んじゃ、何だよ。オレが好き…とか言わねぇよ、な?」
「……そうだと、いけないのか?
 俺がおまえを好きでは…いけないのか?」
真剣な眼差しがデュオの次の言葉を奪った。
何も言えない。
ヒイロの気持ちを今までわからなかった自分に、果たして一体何を言う資格があったと言うのだろうか。
「……………ヒイロ」
デュオは静かな声でヒイロの名を呼んで、それからその告白に返事をする代わりに手の届くところにある苺を摘んで口に入れた。
「…デュオッ!」
「……いいぜヒイロ、これで『抱く理由』が出来ただろ?」
「…馬鹿な、ことを。依存性があったらどうするんだ」
「いーじゃん、そしたらまた、…オマエがしてくれるだろ?」
先程よりはデュオの様子は落ち着いているように見えた。
デュオは自分にのしかかっているヒイロの首に腕を回した。
「……同情か?」
「…やだねそんな風にしか考えられねーやつはさ。
 オレ、オマエとしたキスは結構好きだった。
 克くしてくれるんなら抱かれてやってもいい。…そんだけだよ」
デュオに抱き寄せられるまま、ヒイロは唇を合わせた。
デュオの口内には、食まれた苺の甘酸っぱさが残っている。
そのまま舌を絡ませ、デュオの熱い舌をゆうるりと存分に味わう。
思考が融けてゆく。
ヒイロの腕はデュオがまだ中途半端に身につけたままの下着とジーンズを取り去ろうと動く。
デュオは己も腰を上げてそれを手助けした。
「……ん…ぅんっ……」
長いキスから解き放たれ、デュオは目が合ったヒイロに笑ってみせた。
「…ヒイロ」
ヒイロは熱くなり敏感になったデュオの肌の線を辿る。
愛撫に仰け反ったデュオの首に歯を立てて跡を残すと、右の手では先刻デュオの放った情液を秘処に少しずつ塗り込めていく。
びくんびくんと跳ねる身体はヒイロを誘うように火照っていた。
先刻よりもやわやわと時間を掛けて熱を上げてゆく。
デュオはヒイロを誘うように身をしならせ、与えられる快楽を逃さないようにその身体いっぱいで受け入れているかに見えた。
「…………デュオ」
上がった息でヒイロがデュオの名を呼ぶ。
その響きが好きで、デュオは尚も呼んでもらいたくて、ヒイロの頭に伸ばした手を緩く動かした。
「デュオ?」
ヒイロがすぐにその動きに気付いて頭を上げる。
「…な、ヒイロ……もっと名前、…呼んでくれよ……」
途切れがちな声でそう告げられる。
ヒイロは体を少し起こし、伸び上がるようにしてデュオに口付けた。
「……デュオ…、デュオ…」
そのまま顔を頬から耳元へと滑らせ、耳朶を甘噛みしたり舌を入れたりする。
くすぐったさは繰り返されることによって疼くような感覚に変わり、熱い息はヒイロの感情を的確に表現していた。
紅い跡が所々に印され、デュオの熱を上げながらヒイロの独占欲をも満足される。
ヒイロは先程散ったデュオの精をその舌で嘗め取りながら愛撫を下方に移動していった。
デュオのそれはもう痛いほど張りつめている。
右手でそっと握ってやると、びくりと動いてその手の中で存在を主張した。
「………、あぁっ…!」
同時にデュオの口から甘い声が零れた。
「……っ…んぁ………」
息を詰めているのか、喘ぎがひどく押さえて聞こえる。
デュオの後ろの口はヒイロの指に馴らされてだいぶ柔らかくなった。
食んでいる指をきゅうきゅうと、息をするごとに締め付ける。
「…デュオ、……いいか?」
ヒイロが了承を得る為に問いかける。
それに対してデュオは首を微かに縦に揺らしただけで返した。
もう、声が言葉にならないのだ。
ヒイロがデュオの両足を抱え上げる。
カチャリとベルトを外しジッパーを降ろす音がデュオの耳にやけに大きく響いた。
つ、とデュオが唇を噛み締める。
息を止める。
あるのは戸惑いが少しと畏れが少し。
ぬるりとした感触が後口に触れ、デュオは無意識に身を竦ませた。
身体が強ばる。
頭では承諾しても身体はやはり初めての行為におののいてしまうのだ。
目をぎゅっと瞑る。
大丈夫。
大丈夫だ。
相手は知らない人間じゃない。
そして意志を介さず蹂躙されているわけじゃない。
「…………ヒイロ、」
そうだ。
自分を好きだと言って、欲してくれる相手だ。
「…………………ヒイ、ロ」
最早形作るだけで限界の唇が名を刻む。
ほぅ、と息が洩れ、デュオが身体の力を抜いた。
そしてヒイロが自身の先端をその部分へとゆっくり飲み込ませた。
「………ん、ぁっ……」
辛そうに、息を吐きながら身を捩らせる。
既に先端をそこに含みながら、尚も無意識に腰が逃げを打つ。
思ったほど痛みを感じたりはしない。
けれどものすごい異物感と圧迫感。
ゆっくりと徐々にヒイロの自身が中へと押し入ってくる。
もう意識はぐちゃぐちゃで、自分が何をしているか、何をされているのかすらも良くわからなくなってきていた。
「………デュオ、」
己を限界まで飲み込ませて、そしてヒイロはデュオの名を呼んだ。
デュオの意識がヒイロの姿を認めた。
一瞬目が合い、デュオはすぐにまた目を閉じた。
恥ずかしい。
こんな時に目を合わせるのはものすごく恥ずかしい。
何も考えずにいられる方が楽なのに。
「……早く、しろよ…ヒイロ…ッ……」
そう、言葉が口を突いて出る。
どうせなら快楽だけを。愛情なんて知らない。要らない。
ヒイロはデュオの言ったことを聞いたのか聞かなかったのか、おもむろにデュオの胸の突起を舌で嘗め上げた。
びくん、とデュオが身体を跳ねさせた。
「……っ、のやろっ…」
悪態が聞こえていないかのようにヒイロは尚も苛む。
悔しい。悔しいけれど身体は熱を上げる。
ヒイロが手をデュオのモノにそっと触れさせた。
今にも弾けそうなそれは、ふるりと切なげにその身を揺らした。
挿入に痛みがなかった所為かそれは大して萎縮していず、手で握り込むと後ろの口がひくりと収縮した。
それが自然の動きだとしてもヒイロには無性に愛しく感じられて、ぎし、とデュオを一度突き上げた。
「…っあぁっ…!」
その衝撃でデュオのモノがヒイロの手の中でそのまま弾ける。
達したデュオの内部はびくびくと細かい痙攣のようにヒイロの自身を締めつけた。
それがヒイロには非常に気持ちのいい刺激となるのは明白で。
どくどくと脈打って萎れるソレを柔らかく握ってやる。
射精の余韻でぐったりしているデュオだったが、それには反応した。
重怠いのか、漸くとだけ動かせる首を横に振って。
「………も、…ゃだ……」
二度もイかされて。
腰が怠くて。
ただ、早くこの状況から解き放たれたくて。
ヒイロが早く中で出して満足して、許してもらいたい、そう思った。
眦に僅かに涙が滲む。
もう感情のセーブが出来ない。
「…………ヒ、イロ…」
ただ、そう名を呼んで。
ゆるゆると律動を開始したヒイロの動きに身体だけが揺られて、いつのまにかデュオは意識を手放していた。




気が付くとデュオは小型シャトルの中の簡易ベッドに寝かされていた。
白い天井が見える。
ゆっくりと手を上に伸ばしてみた。所々に少量だが土が付いている。
「………あーー……、」
少し大きめに溜息をつく。
それを聞きつけたのかヒイロが寄ってきてデュオの顔を覗き込んだ。
「……気分はどうだ、…どこか、痛いか?」
彼には珍しくも(いや、初めてかもしれない)気遣うような様子を見せたので、デュオは目をパチクリとさせヒイロの顔を見上げた。
「…めずらし、気ィ遣ってくれてんだ。…飲みもんくれる?」
掠れた声のままでヒイロに話しかける。
ヒイロの手には既にそれらしきものが持たれていて、デュオはそう言うだけで欲した水分を手に入れることが出来た。
パックになっている弁の付いた携帯用飲料。
デュオは寝転がったままその吸い口から水を少量吸った。
「…シャワー浴びんの手伝ってくれる? …腰が立たないんでね」
「……あぁ、」
なるべく言葉少なに会話をする。
ヒイロは無言でデュオを抱き上げると、シャワールームに向かった。
シャワールームといっても至極簡単な設備で、大人が立ったまま二人も
入ればそれだけで身動きのとれなくなるようなものだ。
デュオとヒイロの二人だとまだほんの少しだけ余裕があるが。
シャワーのコックを捻り、勢い良く水を出す。
それはすぐに適温に変わる。
ヒイロは真上から降るシャワーの雨を身じろぎもせず浴びているデュオの、土に汚れた三つ編みを解いて手櫛で梳いてやった。
何度も何度も、その汚れが落ちるまで。



「……………あのさ、」
ぽつり、とデュオが話し出す。
ヒイロは特に返事を返さずに、続きを促すように手の動きを止めた。
「………何で、最後までヤんなかったんだ?」
デュオの内部にヒイロが放った痕跡はない。
それは、デュオが意識を取り戻してすぐに気が付いたことだった。
「……ツライだろ、あんな状態で中途半端に止めちゃったんじゃ」
「……………そこまでして抱きたかったわけじゃない」
「ナニ?」
「意識を飛ばしたおまえをそのまま抱き続けることは出来なかった。
 ただ、それだけのことだ」
静かな語り口が却ってわざとらしく感じられるのは気のせいか。
「…甲斐性ナシだなオマエ。どーだっていいのにンなこと。
 そんですぐにおさまった? その熱はさ」
「………まぁ、な。俺にも多少の効果があったんだろう」
「あの苺?」
「そうだ」
「何だ、オマエも普通の人間だったワケだ。
 んじゃさ、あの時言った台詞も苺の効果だったとかって…言うか?」
デュオの台詞に悪戯っぽい響きが混じった。
ヒイロはそっとデュオの身体に手を回し、背からその身体を抱いた。
こんなにも勢い良く掛かっているシャワーの水音が聞こえない。
何故か、互いの鼓動と台詞だけがやけに大きく二人に聞こえていた。
「………それは…ない。俺はおまえが好きだ。
 感情のままに任せたのは悪かったと思うが……あれは本心だ」
「ははっ、素面でも言えるってことは本物だな」
「………茶化すな」
ヒイロのデュオを抱く腕に力がこもる。
これは、告白だ。ヒイロの真剣な。
「…うん、悪ぃ、…サンキュ」
段々と消えゆくかのような小さな声でデュオは答えた。
それからデュオは自分の前に回っているヒイロの腕を解かせ、口元まで持ち上げると、ちゅ、と口付けた。
その行為で動きの止まったヒイロにデュオは身体を捻って向き合い、ゆっくりと腕を伸ばしてヒイロの首に回した。
そしてデュオの方から触れるだけのキスを一つ。
「…な、ヒイロ。今から[恋愛]しようぜ?
 身体の関係が先だったとはいえ、オレもオマエをちゃんと好きだし。
 普通のデートして、いっぱいキスして、いっぱい好きって言って。
 ま、駄目だったらソレまでだけど」
にこやかな表情でデュオが提案する。
ヒイロに異論のあろう筈もなかった。
「………了解した」
ヒイロには珍しく顔を僅かに紅く染め、了承の意を告げる。
「…んじゃ、まずオレの望みを叶えてくれるか?」
悪戯っぽい笑みがヒイロを誘う。
ヒイロは今まで見せたことのないような柔らかな笑みを照れくさそうにデュオに向けた。
「……愛している、デュオ」
そう告白して。
ヒイロはデュオに、キスをした。





《エピローグ》
ヒイロ・ユイのモノローグより。

デュオがあのやり方で簡単に陥落するだろうことは判っていた。
元々デュオは俺に好意を持っていたし、ただそれが愛情か友情かの区別がつきかねているようだったので強引にこの計画を発動したのだ。

結果、計画は予定通り見事に成功した。
それからはもう、恥ずかしいほどのらぶらぶっぷりだった。
無人のコロニーで良かった、と心底思っている。
そうでなくてはデュオはこんなことやあんなことをするのを許さなかったに違いない。
(…どうこんなことやあんなことだったのかは御自由に御想像下さい)
一週間の滞在でありとあらゆることが出来た。非常に満足した。
本当に充実したバカンスだった。
水と食料の心配をする必要もなければ、好きなだけいつまで滞在しても良かった。
…何故なら、あれは俺の所有する資源衛星だからだ。
だから誰に咎められることのない、安全な滞在だったのだ。
デュオは知らない。
これが誰の仕組んだ脚本なのかも、このとんでもない野菜を育成し出荷させている張本人の存在すらも。
あれら全て何もかもが計算ずくの行為だったことを。

デュオが知ることは未来永劫ないのだ。



【故意のバカンス】完結。←正しいタイトル(笑)






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